思い入れの強い赤谷尾根、そして剱岳へ

K宮です。 二年前に剱岳への縦走は卒業と宣言したが、3月の鹿島槍東尾根での雑談で剱岳の話が出た。黒部川十字峡・八ッ峰・剱尾根R4等々、懐かしく聞き流していたが、心の中にはもう一度行きたいと思う気持ちがフツフツと湧いて来た。当初は、2年連続の穂高継続、不帰周辺、裏銀座縦走が候補だった。そこに、赤谷尾根が浮上した。赤谷山山頂は過去3度行っている。最初は、大先輩と猫又谷から猫又山経由で剱岳まで行った時、2度目は最良のパートナーと宇奈月温泉から剱岳への縦走計画の時、この時は赤谷山で時間ぎれ、赤谷尾根を下降した。3度目は同パートナーとブナグラ谷から、赤谷山経由で剱岳を越え大日岳までの縦走計画の時、この時は赤谷山山頂で雨と雷、停滞するが天候が良くないので敗退、同ルート下降。そして今回で4度目。猫又山や赤谷山から見る剱岳は好きだし、剱岳北方稜線と言う言葉の響きも好きだ。

 

山  行  日   5月3日(水)~7日(日)  予備日1日を含む

ルート(コースタイム)
3日(水) 馬場島発(4:15)→ 白萩川・ブナグラ谷分岐(5:00~10)→ 1425m地点(8:30~45)→ 1863m地点(10:40~11:00)→ 2055m地点(11:45~12:00)→ 赤谷山山頂(13:00~25)→ 白萩山山頂/2269m(14:00) ▲    (9時間45分)

4日(木)
 ▲(4:50)→ 赤ハゲ(5:25~35)→ 白ハゲ/2387.7m(6:40~6:55)→ 大窓/2180m(7:55~8:20)→ 2500mピーク(9:40~55)→ 2561mピーク(11:00~30)→ 池平山南峰/2555m(12:00)→ 小窓/2340m(14:45)▲    (9時間55分)

5日(金) ▲(4:15)→ 小窓尾根の頭/2650m(5:15~30)→ 小窓ノ王基部(6:10)→ 三ノ窓/2650m(6:50~7:20)→ 池ノ谷左・長次郎右乗越/2860m(8:00~15)→ 剱岳山頂/2998m(9:25~35)→ 前剱岳/2813m(11:10)→ 2618mピーク(11:45/12:00)→ 剱沢キャンプ場/2470m(13:00~20)→ 剱御前小舎/2750m(14:25)▲    (10時間10分)

6日(土) ▲  (3:50)→ 雷鳥平キャンプ場/2277m(4:30)→ 室堂/2450m(5:35)      (1時間45分)

メンバー   K宮(L)  Y岡

 総重量      K宮 (24Kg)   Y岡(K宮以上)

 

3日(水)

前日2日(火)の19時前に、電鉄富山駅の改札前でY岡さんと合流し電車にて上市駅に向かう。上市駅からは予約のタクシーで馬場島まで入る。前回は手前の伊折から歩いた。テントを張り3時起床4時出発を確認すぐに寝る。

 

IMGP0400-1 IMGP0403-1(馬場島の指導標)              (赤谷尾根末端・向かって左)

少し遅れて4時過ぎにヘッデン点けて出発、成功の可否は今日の行動次第と気持ちを入れる。直前の週間予報では天気は6日に崩れる。5日には剱岳を越えていたい。で、初日の最低ラインは赤谷山山頂、出来ればさらに先まで・・・・  赤谷尾根への取付きは白萩川右岸の小窓尾根アプローチルートからと決めていた。台地から続く正面の雪のルンゼは前回の下降時に利用した。取付きで、踏み跡らしき跡が見つからずウロウロしていると、Y岡さんの知り合い2人が来た。剱尾根に入るとの事。Y岡さんの顔の広さに改めておどろいた。私の記憶をもとに強引に取付く。残置ロープや赤布を発見、しかし荒れていて結構悪い。我々は、トラバースの途中で剱尾根パーティーと別れて、雪の付いたルンゼを直上し尾根に出た。

 

IMGP0408-1 IMGP0414-1(赤谷尾根から見た小窓尾根と剱本峰)     (赤谷尾根と赤谷山)

IMGP0428-1 IMGP0432-1(池ノ平山を中央に左は大窓右は小窓そして剱岳) (目の前は赤谷山)

雪が多いせいか、以前下降に使った時のすごい藪漕ぎは無かった。締まった雪面を右に左にと選びひたすら赤谷山を目指す。途中右手に、小窓尾根や池ノ平山や目的地の剱岳も見える。曇りがちの天気から快晴になる。サングラスを出すと同時にお化粧する。辛い急登を乗り切り、尾根がなだらかになると、正面に赤谷山山頂が、左に猫又山右に剱岳がより綺麗に見えて来る。赤谷山直下の急登は200m位ある。気温も高く雪も腐ってきて潜る。Y岡さんトップで膝下のラッセル、K宮は必死に後を追う。

 

IMGP0436-1           IMGP0442-1(赤谷山から見た剣岳)                    (白萩山と赤ハゲと白ハゲ)

IMGP0443-1 IMGP0452-1(白萩山山頂から)              (白萩山での夕日)

赤谷山山頂、今日はここまでかと思うがまだ時間が早い。山頂には、ブナグラ谷からと思われる2パーティーがテントの設営をしている。ここを幕営地としたいが、私の歩くスピードを考え赤ハゲを目指すことにする。しかし歩き始めると潜りラッセル状態でペースが上がらない。白萩山山頂はいい幕営地で、明日の早出を確認し初日の行動を終了とした。我々だけで見る剱岳と夕日が印象に残る。

 

4日(木)

今日明日が核心なのでハーネスを付けての行動とする。予定の幕営地は小窓、出来れば三ノ窓を目指す。

 

IMGP0458-1 RIMG3823-1 (赤ハゲから白ハゲに続く稜線)        (朝日に輝く白萩山と赤谷山)

IMGP0475-1 IMGP0473-1               (赤ハゲから白ハゲ方面を)          (赤ハゲからのアップ)

IMGP0478-1            RIMG3827-1 (赤ハゲから白萩山と赤谷山・猫又山を望む)            (もうバテぎみのK宮)

我々より早く動いたパーティーがいたので2番手での出発となる。早朝なのに気温が高いため少し潜る。赤ハゲ手前で太陽が顔を出す。この辺よりアップダウンが続くが行動には特に問題なし。

 

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( 白ハゲ方面を望む)                      (左と同じ)

雪が適度にあり天気・視界も良く、暑いことを除けば最高のコンデションである。ひたすら先行パーティーのトレースを追う。1度ロープを出して岩峰を巻いたが白ハゲまで問題なし。

 

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(白ハゲ山頂から池ノ平山と剱岳)               (鞍部は大窓/奥の白ハゲ)

大窓から池ノ平山への登り(約300m)と小窓から小窓尾根の頭への登り(約300m)のルートが見える。気が重い。その前に大窓への下り(約200m)もある。この下りでは中間部の這松帯で1回の懸垂下降をした。大窓には1張のテントが張ってあったが人影なし。

 

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(チンネ・小窓ノ王・剱岳・小窓尾根ノ頭が見える)       (正面は小窓尾根の頭へのルート)

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(小窓から赤谷尾根・猫又山方面を見る)                (岩峰は小窓ノ王)

池ノ平山北峰への登り(約300m)をヒーヒー言いながら登り、岩峰をロープ出して巻き池ノ平山本峰・南峰を通過、小窓への下降に入る。下降途中で、小窓尾根の頭へのルートに小規模雪崩の後を発見する。連日の快晴高温で発生か? 周りでも小規模雪崩の轟音が響く。我々は小窓幕営を決めた、先行の名古屋Oパーティーも悩んだすえに小窓幕営を決断した。最後は、名古屋のOパーティーと協力して50mと30mの懸垂で小窓に着いた。

 

5日(金)

3日目、剱岳を越え別山尾根を下降し剱沢キャンプ場までの予定。今日もライト点けての早出である。でも昨日までと状況が違う。表層雪崩を警戒しての早出である。目の前の高度差が約300mで雪崩あとのある雪壁を、雪の締まった早朝に登ろうという事だ。

 

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(正面は池ノ平山からの下降部分/鞍部・小窓)  (後立からの日の出)

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(正面は池ノ平山南峰)     (小窓ノ王基部に続く尾根)   (小窓尾根の頭)

小窓尾根ノ頭への長い雪壁は、雪崩跡の部分が一番の傾斜だった。登りの途中で後立方面より太陽が出てくる。休憩を兼ねて写真タイムとする。3日と4日の夕日は今一だったけど、4日と5日の朝日は最高だ。振り向けば池ノ平山南峰からの下降ルートが見える、しかし上を見ればまだまだ雪壁が続いている。小窓尾根ノ頭直下に出ても、朝日が小窓ノ王方面の雪面を照らしていた。小窓尾根の頭からはアップダウンのある尾根を小窓ノ王基部に向かう。

 

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(小窓ノ王に中央のチンネ)          (剱尾根/中央はR4)

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(R4)             (チンネ/左中央は三ノ窓)   (池ノ谷左俣ガリー)

小窓ノ王基部が近づくと右手に剱尾根やR4が見える。Y岡さんは早速情報収集、私は以前に登った時の剱尾根を思い浮かべた。至福の一時である。この頃より剱岳本峰周辺にガスがかかり始めた。一時的か天候悪化の前触れか?  小窓ノ王の基部から30m×2回の懸垂と登り返しで三ノ窓に、ここで大休止。久々の三ノ窓、Y岡さんはチンネの偵察、私は現役時代を懐かしむと共にまた思い出作り。

 

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(長次郎右俣乗越から剱へ向かう)              (長次郎左俣乗越からの急登)

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(急登・中間付近)       (急登を抜け剱岳へ)      (剱岳山頂にて)

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(剱岳山頂・祠/K宮)

三ノ窓を後に池ノ谷左俣ガリーに入る。200m程の登りで何度も上り下りした所である。長次郎右俣との乗越し手前で上空にガスが立ち込めて来る。乗越しに着くころには一面ガスに覆われる。一時的で剱岳山頂での好天を期待し、最後のピッチを登り始める。剱尾根の終了点を越え、長次郎左俣乗越からの最後の急登に入るとガスは晴れて快晴となる。最後とはいえ急で長い、ここも何度か上り下りしているが過去一番と思われた。ここを登り切り、山頂へ続く雪面を必死に歩き目的地・剱岳山頂に到着。360度の展望で、北方稜線・八ッ峰・源次郎尾根、そして奥大日岳・大日岳方面に目をやり、達成感を満喫し記念写真を撮る。

 

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(別山尾根の下り)              (剱沢上部)

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(剱沢キャンプ場からの剱岳)                  (剱御前小舎方面へ)

緩んだ気を引き締めて別山尾根の下降に入る。名古屋Oパーティーは早月尾根を下降すると言う事だった。今日も高温で雪は腐っている。疲労も蓄積されているのでいつも以上に慎重に下る。カニのヨコバイを下り、前剱の雪壁を下降、後はひたすら剱沢キャンプ場を目指すのみ、だが辛い。フラフラになりキャンプ場に着くが時間がある、明日の天気を考えるとテントは張らず少しでも先に進んだ方が良いと判断する。出来れば雷鳥平か室堂まで・・・  とりあえず剱御前小舎を目指す。やっとの事で小舎に到着、時間はまだあるが限界だ。先に着いたY岡さんに小舎に泊まりたいと言うと「いいですよ」との返事、先輩思いである。剱岳周辺に雲がまとわりついていた時間帯もあったが今日も快晴。2年前の5月にこの剱御前小舎で停滞していた私と、八ッ峰を登攀したY岡・S木(ま)パーティーと偶然出会った事が思い出される。PM5時前に夕食をすませ酒を飲んだらどっと疲れが出た。チョット横になったら寝てしまった。夕日も天気予報も見逃した。残念だった。消灯前に一度起きたが、予報は下り坂で、雨の振り出しは確定できないとの事。3時起床、4時出発を確認して再び眠りについた。

 

6日(土)

AM3時すぎ、外を見に行く。風は強く視界も良くない、しかし雨は無い。今しかないと予定通りの出発とする。朝食は行動食の残りとする。

 

IMGP0623-1           IMGP0625-1(剱御前小舎を出てまもなく)         (奥大日岳方面)

IMGP0626-1 IMGP0631-1(室堂手前から奥大日岳)           (雪の回廊/室堂)

ほとんどの登山客が眠っている中を出発する。風はあるが視界は良くなった。下方に灯りが見える。灯りを目標に高度を下げるが潜って体力を消耗する。登りと同じくらい辛い。早朝なのに気温が高いのだろう。2年前は硬く締まっていたのにと思う。 最下部まで降りたところででライトをしまう。あとは一気に室堂を目指す、途中硫黄臭にヘキヘキするが、雨が降り出す直前に室堂に着いた。

 

山の歌の好きな私は、よく剱の歌を唄う。「剱見るなら赤谷尾根でよ 大窓小窓にね 三ノ窓(ヨカネ) 窓に数々窓はあれどよ 剱の大窓ね 日本一(ヨカネ)」 これで剱岳北方稜線に興味を持った。2年前には小間切れだが宇奈月温泉から剱岳を越え大日岳までをつなげた。 もう行くことも無いと思っていた。でも、赤谷尾根は下降したが登った事は無い。登りたいと言う気持ちはあったが縦走する体力が不安だった。Y岡さんには今回も荷物で負担かけたし、自分のペースで歩けないストレスもあったろう。私はおかげで良い思い出作りが出来たが・・・・  感謝感謝です。

 

今回は、失敗は出来ないとの思いから、3~5日の3日間の好天の確率や、万が一を考えてエスケープルートについても色々とパターンを考えた末での計画である。その為に最終判断が直前まで遅れ、Y岡さん並びに関係者の皆さんにご迷惑をかけました。幸いに天候に恵まれ目視でルートを確認でき予定通りの山行となったが、天候悪化で視界不良となったら厳しい山行となったであろう。その時は、体力と読図力と登攀力の総合力が必要になるし、エスケープルートの見極めも大事になると思う。気温が高く雪が腐り体力的に辛かったが、アップダウンの多いこのルートで、雪がダンゴにならずアイゼンに付かなかったのは精神的にも大きかった。

 

 

記  K宮

 

 

 

思い入れの強い赤谷尾根、そして剱岳へ」への2件のフィードバック

  1. kいそ

    久しぶりにブログをのぞきました。

    いい山行されてますね!
    良き思い出などと言わず、ぜひまた次回の山を楽しみにしてます。

    お疲れさまでした!

    返信
  2. H田

    すばらしい山旅の記録を読ませてもらいました。
    感動しました。

    そして、K宮さんの山に対する真摯な姿勢と自立した登山者ならではの様々な思考や行動にあらためて感服しました。
    私には羨ましい限りです。

    また素敵な記録を寄せてください。

    返信

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