H田です。
8月18日(金)の夜出で、上高地~岳沢経由で奥穂高岳南稜の無雪期登山にトライしてきました。
メンバーはかみさん。
行程:8/18(金)沢渡駐車場車中泊 8/19(土)上高地~岳沢 取付偵察 8/20(日)岳沢~奥穂高岳南稜~奥穂高岳山頂~前穂高岳山頂~岳沢 8/21(月)岳沢~上高地下山
このルートは1912年8月24日にウォルター・ウェストンと上条嘉門次が初登した古典的ルートです。奥穂高岳に至る当時としては最も合理的なラインとして登られた本ルートを、初登者をリスペクトして8月に登りたいというのが話しの始まりでした。
2015年の夏に計画して岳沢のテント場まで来て取付偵察までしておきながら悪天の予報に転進した苦い思い出があります。
今年の8月は天候が不安定で、計画しておきながら1度延期。
山の天気予報が上向いてきたのを受けて、今夏のラストチャンスにかけたのが今回の山行でした。
18日夜に沢渡の駐車場泊。
翌19日は岳沢までのアプローチでテント泊。
雪渓の状態を確かめるための偵察をしたら、後は快適なテントサイトでゆったりとした時間を過ごしました。
夜は満天の星空で、天気予報とともに好天を約束してくれているように見えました。
20日は夜明け少し前の5時前に出発。
澄み切った空は待ちに待った瞬間でした。
遠く雪渓の末端には先行のパーティーが2人いるようでした。
以前訪れた時より雪渓からの乗り移りは容易ではなく、取付に近いところでは少しジャンプが必要でした。
そこで昨日のうちに工作して、やや離れた場所でしたが安全に着地できるところからアプローチしました。
取付付近は偵察してあったのでスムーズでした。
本当の意味での南稜における末端は右側の稜のはずですが、無雪期において通常は南稜ルンゼと呼ばれるルンゼ地形を岩場に立ちふさがれるまで登ります。
最初の下の小滝はⅢ級ぐらいのノーロープ・フリーで登りました。
偵察で見た時はもっと立っているように思ったのですが、近寄ると普通です。
この感覚は最近の沢登りでもしばしば感じたところです。
2つめの小滝を直登する頃には先行パーティーの方に追いつき、先を譲っていただきました。ありがとうございました。
ひたすら立ったルンゼ状~草付きを登る様はまさに沢登り。
濡れた露草もあって靴や足もとはすっかり濡れてしまい、岩登りのフリクションは期待できません。
今回、いちばんルートファインディングで迷ったのが三俣のどこをいくかでした。
確かにどこからでも行けそうです。調べた情報は左が多いようでしたが・・・。
ウェストンや嘉門次ならどうするか。いちばん素直なところをいくだろうと考え、見た目すっきりの中央ルンゼを選びました。
いくらかの踏み跡もあり、どんどん高度が稼ぐことができました。
岩場が立ちふさがりましたが、ここも素直に考えて岩場の登攀などせず、右の藪に突っ込んでみました。踏み跡ばっちりで、難なく樹林の藪を抜けられました。このセクションは岩場を登る向きもあるようですが、ルート取りとしては時間をとるだけで無意味です。初登者たちは今はハーケンが打たれた立った岩場を絶対に登っていません。
ワンポイントの登りは足もとが切れ落ちていて、落ちたらただではすまないのでかみさんにはロープを使ってもらいました。登りでロープを出したのはここだけです。
目当ての「トリコニー」が見えてくると好天と相まって気分も高まります。
トリコニーとは昔の登山靴底に打たれた鋲のことのようです。
ホールドばっちりで快適な岩稜クライミングをエンジョイ!
100年以上前の初登者たちもこのあたりの岩を巧みに登ったはずです。
すごいぞ!ウェストンと嘉門次。
稜は人が通るには太いようで稜通しで行けましたが、立ったところは側面も多用しました。
アップダウンもけっこうあり、ひとしきり登ったと思ったら下るところもありました。
岩稜上は自然な登路といった感じで、ルートで迷うところはありません。
ギャップもほとんどがクライムダウンできました。
そうこうするうちに吊尾根方面から人の声が盛んに聞こえてきます。
普通の会話が随分よく聞こえるものだと驚きました。
9時頃、南稜の頭に到着。取付からでちょうど3時間半で登ったことになります。
このコースタイムは彼の「登山大系」にいちばん近いものでした。
ネット情報はルート取りも含めて誤り多く、あてにしてはいけないと再度認識したものです。
10分ほどで山頂到着。かみさんは奥穂高岳山頂は初めてだったので、印象深いものになったようです。ただ、この頃を境にガスが景観を覆い始めました。ギリギリ周辺の景色を堪能できた感でした。
ゆっくり休んでから、下山は吊尾根をすたこらさっさ。
さっき登った南稜をしみじみ見ながら歩きました。
せっかくなので前穂高岳山頂も紀美子平に荷物を置いて登ることにしました。
ここは北尾根登攀時以来。雪がないとまるで印象が違います。
その下降時に雷鳥と遭遇しました。
3mぐらいの間合いでも落ち着いており、悠然として草の実など食べていました。
他の場所でもひなの雷鳥4羽ほども見かけました。
重太郎新道は一般ルートですが、なかなかの難路。吊尾根とあわせて登山者のほとんどがヘルメットを被っておられたのが印象的でした。
天場には13時半過ぎに到着。
ガスったものの雨風に悩むことのない良好なコンディションに助けられての快適山行を終えられました。
時間的には余裕があったものの、予定通りもう1泊テント生活を堪能し、翌日の下山としました。
翌朝も好天で、ゆっくり上高地まで2時間ほどかけて下山しました。
山の天気予報はばっちりあたったことになりました。
かみさんが今回も大活躍で、ロープを出さずに行動できたのがスピードの秘訣でした。
快適なテント生活でもいろいろ助けてくれて本当に感謝です。
ロングの沢登りでお互い練習してきたのは効果があったように思います。
今回はややこだわりがある山行でしたが、いにしえの先達者の思いをほのかに感じることができました。ただ思った以上に人跡があり、これには正直なところ助けられました。前回の赤岳沢なんかよりよっぽど踏まれていたように感じます。
ともかくも夏休み最後にしていい思い出となりました。
不順な天候の隙をついたナイスクライミングでしたね!
先人の足跡を辿るクライミング楽しく読ませていただきました。
次回はどこへ行かれるのでしょうか?
また報告を楽しみにしております!