K宮です。当初の計画は、大喰岳西尾根から槍ヶ岳登頂後に南岳西尾根を下降することでした。結果から言うと飛騨沢を使っての槍ヶ岳ピストンになりました。ここ何年か想い出の多い冬の槍ヶ岳に行きたいと言い続けていましたが、年末年始の天気予報が悪く中止としていた。幸い、今年は予報が悪くないのでラストチャンスと決行しました。悪くても、槍平には行きたいなとも思ってました。
山行日 12月29日(火) ~ 31日(木)
ルート/コースタイム
29日 新穂高温泉(12:00) → 白出沢出合(14:10~20) → 槍平小屋(16:35) ▲
30日 ▲(6:45) → 大喰岳西尾根上/宝の木(8:45~9:00) → 飛騨沢 → 飛騨乗越(12:20~30) → 槍ヶ岳山荘(12:55~13:15) → 槍ヶ岳山頂(13:40~50) → 槍ヶ岳山荘(14:05) ▲
31日 ▲(6:45) → 飛騨乗越(6:50) → 飛騨沢下降 → 宝の木(7:35~8:00) → 槍平小屋(9:00~45) → 滝谷避難小屋(10:20~35) → 穂高平小屋(12:00~10) → 新穂高温泉(12:50) → 松本行特急バス/13:30~
メンバー K宮単独
総重量 26Kg
29日(火) 新しくなった登山指導センターと南岳方面を望む。ここまで来るのが大変だった。前夜28日の21時発特急で松本駅に、そして今日は、松本バスターミナルからアルピコ交通で平湯温泉へ行き、濃飛バスに乗り換え新穂高温泉へと向かった。行動時間を増やしたいので平湯温泉でタクシーも考えたが、相乗り登山者もいなく料金が6千円弱と言われあきらめた。新穂高温泉から槍平まで過去の経験から4ピッチ、1ピッチを休憩入れて1時間で行けば槍平まで行ける。雪は少なそうなのでトレースの状態しだいだ。
雪は少なくトレースばっちりで、穂高牧場、白出沢出合、滝谷出合、槍平と順調に来た。天気も良くいう事もなかった。涸沢岳西尾根の入り口にはトレースはあった。槍平はテントの数は少ない、冬季小屋を覘くと4人・4人・1人と少なく、私の入るスペースもあるので躊躇なく入る。後から3人組が入ってきた。夕食の準備をしながら酒を飲み始めると、もう寝る準備をするパーティーがいる、まだ19時前だ。どうも、ここをベースにして明日槍ヶ岳をピストンするようだ。それもありか。夜中の2時前に準備していたが出て行ったのは気が付かなかった。(写真は滝谷出合から滝谷を望む、中央はドームか?)
30日(水) ここまでの状況からトレースがあると思い込みのんびりしすぎた。小屋を出てすぐに中崎尾根ルートとの分岐に着く。迷わず右に折れ大喰岳西尾根に向かうトレースを行く。最初にあった明瞭なトレースも心もとなくなってきた。宝の木のまだ手前なのに傾斜が付くに従って完全に消えてしまった。雪が降った様子はないので風で消されたのか、ラッセル想定の計画なので問題はないとアイゼンのままラッセルを始める。雪質はサラサラで掴みどころがない、緩斜面は良いが急斜面はシンドイ。すぐにワカンに履き替えるがもがくだけで進まない。白毛門のラッセルが思い出されたがそれでも必死にもがいた。前方に動く気配を感じる。凝視すると人が下りてくる。3人だ。大喰岳の西尾根からですかと声をかけると飛騨沢をトレース付けて降りてきたという。西尾根はトレースありましたかと聞くと無いよと言う、さらに稜線は凄い風ですよと言われた。お礼とトレース使わせてもらいますと言って宝の木を目指す。まだ潜るが、雪面を崩したりかき分ける必要がないぶん、今までよりはマシだ。宝の木で思案する。正面の西尾根の雪壁を見ていると、とてつもなく大きく見えてくる。稜線は凄い風ですよの言葉も頭に浮かぶ。軟弱な私は、風の弱い飛騨沢の下りのトレースを使うことを選択する。
雪崩の心配があるので全体を見渡すと、比較的雪も少なくリスクは低いと判断する。トレースは左上ぎみに飛騨沢の中心方向に向かっている。前方岩頭には槍ヶ岳山荘がみえる。忠実にトレースを追っても膝上まで潜る。何人か下ってくる。みんな、決まったように上は風が強いですよという。
左の中崎尾根には登山者が見える。いいペースで動いている。うさぎとカメのスピードだなと思った。当然カメは私だ。数人下ったトレースなのにまだ潜る。さすがに疲れてくる。しかし、荷物を降ろして休む気にはなれない。リスクは低いと言っても雪面の底を歩いているのだ、一刻でも早く抜けたい。心臓がパクパクするまで歩き、立ったまま呼吸を整える。そしてまた歩く。最初は1ピッチを50m位、段々短くなり20m位になった。ただただ上へ上へと必死だった。こういう状態なので行動食も水分も取れなかった。
広い雪原に一筋のトレースが綺麗だ。その中を一人で歩いている。最初は後続の登山者がくるのを期待していたが、ここまで来たら最後まで一人でと思う。3分の2ほど登ったあたりに来ると真上をジェット戦闘機が轟音を響かせ2機編隊で3回飛んで行った。かなり大きく見えた。振動で雪崩を誘発するんじゃないかとヒヤヒヤした。振り返れば自分の歩いたトレースと笠ヶ岳・中崎尾根・飛騨沢下部がクッキリと見える。飛騨沢上部は下から見ると傾斜がないように見えたがかなりの傾斜だ。この頃になると、1ピッチ20mから10m位に落ちた。上がるにつけ風も出てきた。最後は1ピッチ5m位に落ちた。ツメは、雪は飛ばされアイスバーン状態になる。アイゼンに履き替え飛騨乗越へ、ここで強風を避け、ザックを降ろして飛騨沢に入ってから初めてお湯と行動食をとった。そして槍ヶ岳山荘へ。冬季小屋の周りに10数名いた。下山の準備をしている。私は、小屋に入り寝るスペースを確保して山頂に向かう。疲れ切っていたが、山の天気はいつ崩れるかわからない、穂先には人は見えない。
登頂ルートを時間をかけてゆっくり登った。山頂にも誰もいなかった。こんなことは中々ない。奥に見慣れた祠(左写真)があるのみ、360度の景観、まず槍ヶ岳山荘(右写真)一番手前が冬季小屋、登山者は下山したのか見えない。
左写真は、大喰岳から南岳・穂高岳方面、明日の予定ルートだ。天気さえ持てば、雪が少ないのでラッセルも問題ない。南岳西尾根の安全地帯である樹林帯まで一気に行きたい。右写真は、祠のすぐ左から撮った北鎌尾根、登山者は確認出来ないがいるだろう。
この写真は、山頂から撮った小槍、この時には槍ヶ岳西稜(小槍尾根)、すなわち、小槍~曾孫槍~孫槍~槍ヶ岳をつなぐルートを登攀していた3人パーテーがいたのだ。強風の中の登攀、素晴らしい。小屋に戻ってわかったが、まだこういうクライマーがいるのだ。私は山頂にいた10分含む50分くらい槍の穂先を独占だ。贅沢な一時だった。
小屋には1人の登山者がいた。西穂高岳まで縦走予定とのこと。今日は強風の為に停滞したみたい。登攀パーティーはもう最後の槍ヶ岳山頂直下まで来ている。暗くなる前に山頂に着くだろう。
2015年12月30日、夕日に染まる槍の穂先と槍ヶ岳山荘。冬季小屋は、最終的に10人となった。明日31日の予報は悪くなるとの事。停滞して元旦に南岳西尾根の森林限界まで行く、悪天が続いたら大喰岳西尾根を下降と決める。しかし酒を飲むにつれ明日の下山に気持ちが変わっていく。
31日(木) 天気が崩れる前に、大喰岳西尾根を下降し今日中に帰ろうと小屋を出る。飛騨乗越まで来ると今度は飛騨沢下降もいいかなと思う。登ったのだから今度は下ろうと。昨日のトレースは消えていた。ガスって傾斜もアップダウンもわからない。方向を決めてアイゼンで突っ込む。潜るがはねるように駆け下りる。気持ち良い。下りるに従って視界もきいてきた。中崎尾根を登る登山者が何パーティーか見える。宝の木に向かってトラバース気味に下っていくと宝の木から3人パーティーがラッセルしてくる。昨日の私と同じことを聞く、西尾根経由ですか? いえ、飛騨沢を降りてきました、と私。この後も昨日の私と同じ。西尾根の予定で来ましたがトレース使わせてもらいますという。結構潜りますよと私。
宝の木、大喰岳西尾根登降の目印である。緊張感一杯の下降だったがこれで一安心。ここからは、トレースを忠実に槍平小屋(右写真)を目指す。2人づれの登山者に会う。さっきのパーティーと同じことを聞かれる、同じことを答える。槍平小屋には下山準備をしているパーティーがいる。
下山しながら、南岳西尾根へのトレースを探したがなかった。入ったパーティーがないのかトレースが消えたのか。滝谷避難小屋(写真)、外観も中も昔と変わらないが小屋内は綺麗に掃除されていた。積雪期・残雪期の滝谷登攀を目指したいく人もの先人が不安を胸に一夜を過ごした場である。私もその中の一人である。
新穂高ロープウェイから松本駅直通の13:30発のバスは無理と思っていた。平湯温泉発16:45のバスが目標で、新穂高ロープウェイに15:00までに着けば連絡バスに乗れるだろうとも思った。飛騨沢下降で時間短縮ができ、白出沢出合に着いた時点で直通バスに間にあうと最後の体力を振り絞り新穂高温泉を目指した。涸沢岳西尾根には大勢のパーティーが入ったみたいだ。奥穂高岳に登ったパーティーが言っていた。人気ルートは、涸沢岳西尾根と槍平経由の中崎尾根か、写真は登山指導センター前の広場。
計画の南岳西尾根下降は出来なかった。計画通りなら納得のいくいい絵図が書けたけど、一気に行かないと色々と考えてしまう、特に単独は(私は)・・・・ 弱気の部分が出てしまった。勇気ある決断だとか、何かを感じたから下山を選択したのだ、結果、今も生きているだろうともいわれる。どうだろうか ?
私にとって、飛騨沢は空白地帯で、夏も冬も含め一度もトレースしていなかった。槍ヶ岳登頂のアプローチとしては最高だった。今回の山行、広い雪面を雪崩のリスクが低いとはいえ緊張しながら一人でラッセル、さらに、槍の山頂も独占、さらに飛騨沢に下降のトレースを引く。計画は失敗に終わったが、ま、いいかと言う心境である。
K宮 記
いい写真だ.本当,行ってみたくなる.・・・計画は所詮,計画.状況とパーティを見て,安全を見込み,山を登る.これは,冬山の鉄則であり,冬山の醍醐味でもある.まして,単独.いい山行だったと思う.今度,酒飲むとき,また,話してくれや.