H田です。
久しぶりの投稿です。
5月5日に念願の明星山P6南壁「フリースピリッツ」をオールフリーで完登することができました。
メンバーはかみさん。今回も大活躍してくれました。
2年ほど前から妄想が行動に変わっていきました。
現地偵察すること2回。
フリースピリッツに自分の力でトライし完登することは、クライマーとしての自分にとっては目標であり、到達点であると考えていました。
取付までの偵察も2回していますが、圧倒的にそそり立つ壁を前にして「無理かな」と思うばかりでした。
ロングフリーというより、完全な本チャンルートとして意識しました。ルートの写真を撮り、双眼鏡で綿密な観察もして自分なりに徹底的に研究しました。
ここに至るまでのコンディションはけっして良いものとはいえませんでした。
いろいろなことが重なり、十分なトレーニングをしてきたとは言いがたいものでした。
ところが、壁を目前にすると心晴れやかに登る気満々でいる自分に気がつきました。
目標は3P目まで。
ここまで登って自信が持てなければ降りようと心に決めていました。
天気は予報通り良く、連休の中日ということもあってかルートはもちろん、壁も貸し切りの状況でした。こんなチャンスはめったにないものです。
心配していた3P目は驚くほど快適で、プアプロはまったく気になりませんでした。
こうなってくると自然と身体にリズムを帯びてきます。
読み通りに登れることの快感は得もいえぬものでした。
いよいよ下部の核心部に入っていくかと思うとドキドキする一方、ワクワクしていつも通り落ち着いているのが感じられました。
ここまでの登りは今まで登ったルートと比べても断然悪い訳ではない、いつも通り登ればよいと自分に言い聞かせました。
万全を期して、計画通りウメボシ岩の手前でピッチを切りました。
終了点はカムで補強しないと少し心許ない気がします。
有名なウメボシ岩上部トラバースは思い切りがいりました。
でも思ったよりは悪くなく、それなりに行けるものだとも思いました。
ただ焦りはあり、ビナを1枚落とした上にプロテクションの設置位置が悪く、フォローのかみさんには迷惑をかけました。まだまだだと思い知らされました。
核心部の一つを越えてホッとしたのもつかの間、7P目は意外と簡単ではありませんでした。
見通しがきかないカンテ右に出るのに、情けないプアプロに託すしかありません。
全ピッチを通して、私にはここが1番の核心でした。
聞いていた通り(偵察の時、たまたま居合わせた開拓者の1人であるT口氏から大まかな注意点を聞いていた)ピッチ間のコールはほとんど聞こえません。
合図は全てホイッスルを用いました。
それでも聞き取りづらいこともありましたが、かみさんとのいつものリズムが功を奏してくれました。
ここでは怪しい終了点より岩角を用いた方が強固な支点となりました。
白く見えるところはボロボロ。ここで初めての自然落石と思われる盛大な落石があり、ラインは逸れているもののゾッとしました。
落石が多いこの壁にあって、この程度で済んだのは幸運だったと思います。
8P目を越えてようやく上部が見えてきました。
対岸から双眼鏡で観察した時、上部に抜ける岩場の一つに勝手に「包丁」と名付け、その脇が弱点だと思い定めていました。
これはドンピシャで当たりだったと思っています。
「日本の岩場」などで悪いとされていた中央バンドの終了点も比較的良いところを見つけられました。
バンドのザレ地の横断はノービレーで歩き、ここで昼食としました。
強い陽ざしに首筋がひりつくのを感じました。
11P目はお待ちかねのイージーピッチで、上部壁をランペに沿って登れ、高度を稼がせてくれました。
ようやく気持ちがひりつかない、のびのびとしたクライミングができたと思ったのもつかの間でした。
やはり勝手に名付けた「かぶ」岩からのルートファインディングは考え所でした。右に行く方が易しそうにも見えます。
ここはトポにしたがって左に出ます。
バンドまでほぼノープロ同然ですが、カンテのような地形にはラインが見いだせました。
下からは見えなくてわかりませんが、自然なラインをとると不思議にパノラマトラバースの起点に導かれたように感じました。
ルートの目玉、パノラマトラバースはもう高さに麻痺してしまっているようで怖さはさほど感じませんでした。
凡ミスをしないことだけを心がけていました。
実質的最終ピッチであり、ルート中では技術的な核心(所詮は1ケタグレードですが・・・)とされるポイントにたどり着きました。
終了点はしょぼいですが、カムで補強したら十分使えそうでした。
ランナーもプアプロですが、落ちさえしなければどうということはないので自信を持って心して登らせてもらいました。
陽の加減がまぶしく、緊張はしましたが気持ちよくフリーで登ることができました。
視野が狭くなっていたのか、本来より数メートル登りすぎたところまで行ってピッチを切りました。
ここから容易な緩傾斜を2P分ほど登って南山稜に出て終了。
遙かな下方に展望台や車を駐めたキャンプ場などがよく見えました。
下降もけっこう難易度が高く、以前左岩稜を登った時も目印の松の木を見つけるまで苦労しました。
およそ1時間半ほどかけて下山完了。下山路も目印のフィックスロープやテープがなければ極めてわかりづらい道です。
今回は自分でも驚くほど無理なく、気持ちよく登ることができました。
しかしそれは自分に力があったからではなく、良きパートナーに恵まれ、運が味方し、先人たちの素晴らしい発想に基づくルートがあったればこそと思っています。
かみさんは本当にすごかった。
オールフォローでしたが荷物を背負いながら悪いピッチやトラバースラインもすべて問題なくついてきてくれました。
天気が良く、先行・後続もなく、落石なく、不測のアクシデントに見舞われなかったのは運が良かったからとしか言いようがありません。
それにしても素晴らしいルートでした。
多くのクライマーが魅了されたのがよくわかりました。
ルート名が多くを物語っています。
記録を見ると34年前にマニュフェスト~フリースピリッツ~クイーンズウェイを当会にも一時いらしたM江良三氏が継続で登っているのですね。
他にも名もなきクライマーたちが大勢トライしてきたことでしょう。
プアプロでも十分な支点があったことが物語っています。
今の時代にあってフリースピリッツのようなルートは低グレードで弱点を突いた「逃げのルート」とされて時代遅れなのかもしれませんが、私はこうしたルートが好きだし、求めてもきました。
ただ残念なことに、自分自身にとってもうこのあたりが限界かと思うのも寂しいですが現実です。
しかしこれからのクライマーのみなさんにはこのルートにこめられた魂の証のようなクライミングがあることを知ってほしいと思います。
それは登ることでしか感じられません。
今回は自分なりに会心の結果で終えることができました。ここまで導いてくれた今は亡き先輩を始め、応援してくれた会の皆様に感謝申し上げる次第です。
フリースピリッツ完登おめでとうございます!
培ってこられた沢山のものを存分に発揮された素晴らしいクライミングでしたね。
またお話を聞けるのを楽しみしております。
ゆっくりと体を休ませてください。
お疲れさまでした!
素晴らしいラインですね!
H田さんの思い、このフリースピリッツという登攀ライン、一つの物語みたいでした。
フリークライミングで数字を追って鍛錬を重ねるも大事ですが、自分もこういった歴史を感じるラインに
トライして、先輩方の思いを少しでも感じてみたいです。
お疲れ様でした。
またお話をお聞きしたいです。