H田です。
ようやく念願叶ってアメリカ・ヨセミテでクライミングをすることができました。
とるに足らない記録で心苦しい限りですが、拙くも報告をいたします。
期間:2019年4月27日~5月5日
メンバー:かみさん
この時期の10連休は2度とないと思い、思い切ってヨセミテに行くことを思い立ちました。
これまでアメリカのトラッドはニューヨーク州のシャワンガンクスやコロラドの諸エリアを巡ったことがあり、3大クラシックの最終ピースであるヨセミテにはいつの日かなんとしてでも訪れてみたいという思いはありました。
映画「The Dawn Wall」(日本では一般上映していない)を冬場に観た時に鈴木英貴氏(レジェンドクライマー)にヨセミテの魅力を語ってもらい、必ず行ってみたいという思いがいっそう高まったものです。
3つの壁を乗り越える必要があると出発当日までずっと思っていました。
①休みが本当に取れるか、怪我・病気・不測の事態に見舞われないか。
②運転、宿、買い物から岩場のアプローチに至るまで順調にいき、アクシデントなく岩場の取付までたどり着けるか。
③グレードによらず、自分の力でルートに刃が立つか。
地道な準備をして、いくらか運に身を任せ、自らとかみさんを信じてその日を迎えました。
さまざまな経過があったものの、ともかくも無事にサンフランシスコ国際空港に降り立てました。
予想通りレンタカーの手続きと運転で苦労しつつも、4/27の夜にクタクタの状態でベースとなるYosemite View Lodgeにたどり着きました。
クライミング始めは翌日から。
駐車場から至近で手頃なスワンスラブはいつも混んでいると聞いていましたが、幾分空き気味だったので手始めに登ってみることとしました。
支度を済ませた時、やにわに2人のクライマーが先を行かせてくれと言ってきました。
彼らはフリーソロのようなので登りを見ないようにして先に行ってもらいました。
初ヨセミテルートはとても易しいながらもプロテクションなど考えさせるところがあり、アメリカのトラッドルートであることを実感できました。
かつても感じたこと。それは低グレードでもおもしろい!
トポには記載されている終了点のボルトがどこにもなかったことも印象的でした。
この地にあっては短めでしたが、夢にまで見たヨセミテ・クライミングがまずは実現したことを喜ばずにはいられませんでした。
その後、周辺の空いていたルートを見繕ってワイドを含め3本登りました。
5.6~5.9の低グレードでしたが、どれもそれなりにおもしろいルートでイントロダクションにはちょうど良かったように思いました。
4/29はヨセミテマルチで最も有名な「Nutcracker」をトライすることにしました。
ルート概要はよくわからないものの、取付までは前日に偵察したのでスムーズでした。
この取付偵察は能率は悪いかもしれませんが、今までも日本中の様々なマルチルートにおいてやってきたことです。
私たちはどんな時も常に自分たちの自己責任の下で判断する必要がありました。
誰かに連れていってもらうツアーは久しくやっていません。
見出すこともクライミングだと考えています。
この後ヨセミテのどのルートにおいてもついでを含め必ず行いました。
「いつも通り」を貫き、自分たちのクライミングに対する姿勢が通用するのかも今回の楽しみの一つでした。
ききしに違わぬグッドルート!
難しいところはなく、アクセントも効いている、人気の所以がわかる気がしました。
Yおかくんのアドバイス通り早めのアプローチが功を奏し、この日2番手でした。
先行のアメリカ人の2人はけっこうゆっくり&ロープ短いのか正規の半分くらいでピッチ切るので多少待つこともありましたが、順調に登れて終了テラスに至ることができました。
ここまで7P。通常は5Pですが、先行に合わせるとそうなってしまいました。
先行の2人にはハイタッチと賞賛の言葉で迎えてもらえました。
2人ともnice guyでした。
ルートがあるManure Pile Buttressはこの辺りでは小さめの岩塔ですが見晴らしは良く、El Capitanや周囲の展望には事欠きません。
しばしのんびりしてから20分ほど歩いて下りました。
後続はなかなか見えませんでしたが、駐車場に戻った頃に見上げるとManure Pile Buttressの人気マルチルートにはアリの行列かと思わせる混みようでした。
この日は昼過ぎぐらいで時間はたっぷりあったものの、もう満足してしまいカリービレッジのマウンテンショップで買い物したり、候補エリアの偵察をしたりで過ごしてしまいました。
翌日も夜明けとともに起き出し、Glacier Point ApronエリアのThe Grack,Centerにトライしました。
SUPER TOPOでは5つ星の低グレード最強ルートです。
もう最高!!!
3級ルートみたいなものではありますが、クラックが浅くなりノープロ同然のセクションもあり、適度な緊張感と達成感がある素晴らしいルートでした。
各ピッチ60mいっぱいから40mぐらい伸ばします。
調子に乗ると終了点を作るクラックがなくなってしまうかも。
続いてGlacier Pointの岩の際をたどってHarry Daleyを目指して移動しました。
昨日も見ているので迷いません。
雪渓が残る基部まで来ると、ちょうど同じくこのルートを目指してきた3人の南欧系のグループに行き合います。
頼んで先を行かせてもらうこととしました。
少々急ぎ気味でしたが、これまた素晴らしいクラックルート。トラバースも全く怖くありません(フォローを思うと1本はとっておくべきでした)。
2 P目もすこぶる快適。
あ~、この感じはどこかにもありました。
中ア宝剣岳のオケラクラックがこんな感じだったでしょうか?
下降してからのんびりランチ。
前日に見つけたアプローチ道をたどれば駐車スペースまでもわずかでした。
この距離の感覚は衝撃的で、小川山や瑞牆の人気マルチルートの取付きが駐車場からけっこう近いというのに似ています。
次の日は大人気エリアの一つChurch BowlのBishop Terraceを目指しました。早い出発をして貸し切り状態でトライできました。
大人気の所以がわかった、素晴らしい構成のルートでした。
こんなルートも駐車スペースから至近中の至近。
きいていた岩やクライマーを見上げるためのベンチ(基本は観光客用)も近くで見つけました。
午後はヨセミテ滝の下部を通って、やはり大人気のJamcrackを目指します。
先行グループ(スペイン系の人? 登りながら下の人との話が長い)がいましたが、待ってトライしました。
陽ざしをたっぷり浴び、サングラスをかけずにはいられません。
ボーっとしてしまったのか、ギアをいくらかもらい損ね、一部ランナウトすることになりましたがさして怖い思いをすることなく完登できました。
ヨセミテ滝はこの時期水量が多いようですさまじい水しぶきをまじかで感じることができました。
橋の付近は時ならぬにわか雨の様相でした。
観光客は大喜びです。
老いも若きも、男も女も、健康な人も身体が不自由な人も、肌の色などもちろん関係なく誰しもが通っているトレイルはアメリカの実に良き風景です。
この際なので有名なキャンプ4にもお邪魔することにしました。
5月からは空きの受付は先着順ではなく抽選になったとのこと。
この日はもちろんFULLでした。
それでも日本の感覚からするとギシギシではなく余裕がずいぶんありますが。
キャンプ4のボルダーといえばMidnight Lightning(V7)ですね。
会員のI井さんにも勧められた通り、2~3手触ってみました。
クライミングシューズを履いてのオンサイトトライでしたが、挑戦権がないことがよくわかりました。
代わりに近くのかわいらしいボルダーをアプローチシューズで登ってみました。
これで十分。
このキャンプ場でクライミングの歴史がはぐくまれたことを想い、この地を後にしました。
早いものでもう最終日。
前の日に下見しておいたEl Capitan Baseへ8時ごろアプローチをかけました。
この時間だと駐車スペースの人もまばらで、クライマーはEl Capitanのはるか上部のNoseあたりを登る人のみです。
このBig Wallを登る人というのが想像以上に多いようで、所によってはひしめいているようにさえ見えました。
今回のメインとしたのはMoby Dick,Center 5.10a。
見栄えよく、下からヘッドウォールが真上に見えるところが気に入りました。
下部核心で、デリケイトなクライミングから一息付けてクラックのサイズ感が変わっていきます。
あらゆるサイズがあり、あらゆる技術を求められていることがわかりました。
これがヨセミテのスタンダードなのだと思うとうれしくなります。
油断したのか平凡なクラックで位置の修正をしていたらよもやのカムのスタッグ、動きません。
安定した場所だったのでかみさんに残置やむなしと話していたところ、後続で待っていた男女パーティーが可能なら回収してくれるとのこと。
恥ずかしいことですがやってしまったものは仕方がありません。
ワイドセクションに入っていくと下からの見た目より手ごわいことがすぐにわかりました。
#3や4は送りも交えながらもほどなく弾切れ。
ラストセクションは5.9程度のワイドを結構なランナウトで登り切りました。
今回最高グレードでのオンサイト達成!!!
今まで「いつも通り」でやってきたことを出し切りました。
しばらく息が上がって整いませんでしたが、全力でやり切ったことに満足できました。
かみさんも順番待ちしていた男女も一緒に喜んでくれて気分はHappy。
2P目は10数メートルと短く、登りやすいものでした。
遥か上方にはEl Capitanの壁がそびえ立って見えます。
その一部にクライマーとしていられることに感謝と誇りの念を感じました。
裏手にあたる所から60m近い懸垂下降(ゆえにバックロープは必携)をして着地。
うまく引かないとスタッグ必至の形状でしたが、これも長年の失敗から学んだ経験で無事にロープを回収することができました。
スタッグしたカムも後続パーティーが回収を果たしてくれてラッキー。バックロープを使って戻してくれました。サンキュー。
このアメリカ人クライマー、登りもすごいですが回収テクニックも凄腕と見ました。
お礼に日本の甘栗を置いてきました。
引き続き少し右に横ずれして、Pine Lineにトライするためhuge platformといわれる大テラスに向かいました。
El Capitanで最も有名なルートの一つNoseのアプローチピッチとして使う人も多いようです。
実際イケアのロゴが入った袋でロープをくるんだクライマーがフリーソロで駆け上がっていくのを見かけました。
よほど易しいのかと思いましたが、登ってみると私にとっては普通にプロテクションをとるべきルートでした。
グレードなりにやさしいとはいえ、ホールドは人の手足などでつるつるに磨かれ、浅いフレアーしたクラックはセットしづらいものでした。
終了点にある盆栽のように植わっているPineは頼りになる支点でもあり、Big Wallにトライしていく人々を言葉もなく見送る最後の木ということになるのでしょうか。
たくさんのクライマーやその歴史をずっと見守っている木に触れられたことも感激でした。
駐車スペースまで戻ると、近くの気持ちのいい木陰でランチ。
これだけでもいいかもしれません。
締めに手近かなエリアを選ぶこととしました。
昨日は混雑で登れなかったCharch Bowl エリアのCharch Bowl Liebackへと向かいました。
ルートとしては楽しめましたが、60m1本ではギリギリで少しTRセットに手間取りました。
たくさんの人が登るので足がツルツルとの評判のようですが、そこまでとは感じませんでした。
なにはともあれ、無事故でクライミングを終えられ一安心。
そして、結果として全トライルートをオンサイトで登ることができて大満足。
低グレードで、☆が多いポピュラールートばかりでしたが、自分たちでやり切った充実感は大きなものになりました。
ところがまだありました。
最後の晩餐を迎えるべく、ステーキ肉を買い込んで宿に戻るとよもやの停電。
地区全体のもので、予定より大幅に遅れている模様でした。
最後の晩餐はたくさんのビールとお菓子で済ませることになりました。
おかげで帰り支度はしっかりできましたが。
停電は午後10時に復旧。あちこちから歓声が上がっていました。
帰りがけに何らかのクライミングギアやグッズを得るため、大手アウトドア用品店のREIに立ち寄りました。
大昔に作った会員カードは有効でした。
30分勝負と決めたもののそれほどほしいものもなく、適当な数品を購入しての見学となりました。
この巨大店舗は見て回るだけでも楽しいものではありましたが。
かみさんをはじめたくさんの友人知人の協力があってなしえた今回のツアーでしたが、無事に帰ってこれてほっとしました。
関係の皆さんの理解と協力あってのことと感謝申し上げます。
特にかみさんにはともに生活し、ともに登っていただいたことにこの上ない感謝を申し上げたい。
これまでの様々な山行やクライミングともども、ありがとうございました。
ツアー前は、この地で登れたらもうクライマーとして思い残すことはないと考えていましたが、何のことはなくまた登りたい思いを一層強くするものになっていました。
申し訳ありませんが、もう少し登っておきたいのでお許いただけると幸いです。
ただ、ツアーの中途で時折考えてはいました。
やはり転機は転機だなと。
長年に渡って記録を発表し続けてきた東京雪稜会のブログは一休みしようかと思います。
今はもうない会報ベルグシュタイガー以来の使命を私H田なりに果たし終えたからです。
あとはYおかくんや若い方たちに託しておこうかと思います。
クライミングは素晴らしい。
そこにかかわる人たちはもっと素晴らしい。
このことを皆様にお伝えして終わりといたします。
YOSEMITE遠征、素晴らしいですね!
自分も行ったルートが多く、記憶を重ねて読ませて頂きました!
本当にクライミングは素晴らしいです。
本当に色々な事を学ぶ事ができます。
時には困難を、時には歓喜を、、
特にアメリカのクライミングに対する考え方、文化、、本当に素晴らしかった。
クライミング、山を通じて沢山の人に出会うことが出来ましたし、この先も沢山の方に出会い、イイ刺激を受けてクライミングを続けて行けたらと思っております。
少し涙もろくなってしまいました・・・。久田さんの記録を読むのが楽しみでした。残念です。
いつの日かH田さんとYOSEMITEでロープ結んで登れるようにトレーニング頑張ります!
近々、I井さん誘って、瑞牆辺りでトラッド合宿しませんか。
Take Hold awesome!
ヨセミテツアー、エンジョイですね!
そして、まだまだ登ってください
許しを乞うには早すぎますよ
たくさんあるでしょ!登るとこ
ぜひ、H田さんの次章のクライミングトリップを楽しんでくだい。
ベルク本当にたくさん楽しく読ませて頂きました
もちろんベルグシュタイガーの頃からですが
またいつか読める日を楽しみしてます!
日記を拝見させてもらいました。小生、来年4月から憧れのヨセミテ行きを考えています。現在60才、簡単なルート(10ぐらいまで)しか登れません。数Pの推奨できるルートあれば、いくつかお教えください。
トラッドで5.10a程度が自信を持ってリードできるのであればブログで記した各エリアのルートは全てお勧めです。
有名なところでは「Nutcracker」は登っておくべきマルチでしょう。
もしトラッドのリード力がそこに至っていないのであれば易しいグレードであっても苦戦は必至です。
ワイドを含んだ様々なサイズとロングルートでのランナウトの練習・経験をしておくと役に立つと思います。
ヨセミテ遠征楽しそうですね!
面白く読ませていただきました。
私も来年ヨセミテに行きたいと思っています!
ヨセミテ遠征にあたって、参考にしたサイトや書籍があれば教えていただけませんでしょうか?
また事前に注意することあれば助言いただけますとありがたいです!